“SCRAPWOOD WALLPAPER BY PIET HEIN EEK”で世界の壁紙関係者をあっと言わせた オランダ人デザイナー、PIET HEIN EEK(ピート・ヘイン・イーク) 同壁紙シリーズの元となった廃材を利用したSCRAPWOOD家具シリーズは 素材の持つ美しさと優れたデザイン、パワフルなメッセージを含み 世界中に熱烈なファンを持っています。 世界を代表するデザイナーであるピート・ヘイン・イーク氏を WALPA のバイヤーであるXavier Beaulande(ザビエ・ボランド)がインタビューしました。
無理な可能性について考えるのはエネルギーの無駄遣い
B:じゃあ早速なんだけど、最初は小さな会社から始めて今はかなり大きくなってるよね。 始めた頃と比べて クリエイティブのプロセスで何か変わったと感じることはある? P:誰もが最初は小さい所から始める。お金も経験も何もないからね。 いきなり大きな会社を作ることはできないだろう? 次に何が起こるかというと、いろんな機会が増えるんだ。 新しい機械の導入だったり、新社員を雇ったりして 会社が少しずつ大きくなっていく。 それから市場からの反応が増えたり、 一緒にプロジェクトをしようという声も増えていったんだ。 でも大概のことは何も変わってないよ。 僕たちは今でもひとつひとつハンドメイドで作っているからね。 そして年々デザイン数が多くなって作品の幅も広がっていく。 建築業界にも進出したりね。 置き換えるのではなく、付け足していくんだよ。ただ付け加えていくだけ。 B:じゃあクリエイティブなプロセスでは何ら変わらないってこと? P:そうだね。 僕のデザインは全て素材と技術と職人技から成り立っているんだ。 初めは1つの機械しかなくて、 お金もないからいろんな素材を買うこともできなかった。 可能性を制限されていたんだ。でもただそれだけのことさ。 制限されている中で何ができるか。 できないことや無理な可能性について考えるのは エネルギーの無駄遣いだと思わないかい? これが僕の会社のコンセプトなんだ。 そう考えて仕事をしてきたから、全てが少しずつ成長してきてるんだと思うよ。 B:なるほど。コンセプトはそのままで機会が増えたってことだね? P:うん。例えば、会社を立ち上げたとき当初はデザインの依頼が たったの1社からも来なかったんだ。 でも今ではたくさんの人がコラボレーションしよう!と話を持ってきてくれる。 嬉しいことにそういう話は年々増えているよ。 B:今じゃ引っ張りだこだもんね。次は仕事の進め方についてなんだけど、 プロジェクト進行とかどんな風にしてるの? P:決まったやり方はないよ。素材と機械任せさ。 ただなんとなく機械を触っていたらデザインが生まれるなんてこともあるよ。 インスピレーションはどこからでも生まれるんだ。魔法みたいにね。 何もしなくても情報はずっと波のように押し寄せてくる。 それらをどんどん蓄積して作品に反映させていくんだ。
「素材自体がスターティングポイントなんだ」
B:作品のインスピレーションも素材と機械からきてるの? P:そうだね。素材と機械から全てのインスピレーションを得ているよ。 素材と機械の組み合わせだね。 よくインスピレーションについて質問されるんだけど、 卒業制作で1999年に発表したScrapwood Tableも 素材からアイディアを見いだして作ったものなんだ。 まず廃材置き場に行って見渡すことから始めるのさ。 一旦他のことは忘れて、デザイナーとしてその素材の持つ可能性だけを見るんだ。 その時そこにある素材で何が作れるか。 デザインありきで素材を選んでいるわけじゃない。 素材自体がスターティング・ポイントなんだ。 B:デザインが先行してるわけじゃないんだね。 おもしろい!ピートの初めての作品ってどんなの? P:最初の作品はマッチ棒で作った家だよ。どこかへいってしまったんだけどね。 それから椅子の本を作ったんだ。今まで僕が作った椅子を全部載せたんだよ。 2、300作品くらいあったかな。 一番最初に紹介している椅子は僕が13歳の時にマッチ棒で作った椅子なんだ。 僕の親指くらいの大きさのロッキングチェアだよ。 これが僕の一番最初にデザインした作品だね。
B:ずっとデザインをしてきたんだね。 P:デザインするというより、ずっとものづくりをしている感覚だよ。 B:いつも木材を使っているの? P:木材だけじゃなくて、金属やプラスティックも使うよ。 金属加工もたくさんしているんだ。 さっきも言った通り全ては素材から始まる。 木材は加工する機械も木材自体も安いから扱いやすいんだ。 B:Scrapwoodシリーズのイメージが強かったけど、 それだけじゃないんだね。 たくさん作品を世に送り出して有名になった今と ブランドを立ち上げた頃とでは状況が変わってきたと思うんだけど、 立ち上げ当初はどんな感じだったんだい? P:そうだね、最初の頃は作品が全てだった。 今ほど有名じゃない頃は純粋に作品を気に入ってくれた人だけしか手に取ってくれなかったんだ。 作品だけで勝負している感じだった。 もちろんブランドの歴史は大事だと思う。 積み重ねたものがないと名前も売れないしね。 でも今ではネームバリューがついちゃってるから…なんて言えばいいのかな… B:ネームバリューで買うわけじゃなくて、 作品を気に入って買うのが有るべき姿だってことだよね。 P: そうだね。僕たちはラッキーなんだ。 本当に作品を気に入って買ってくれるお客さんがいる。 僕らのクライアントは本当に僕の作品を気に入ってくれているし、 珍しくて面白いプロジェクトを持ちかけてきてくれるんだ。 信頼してくれてるってことだね。 僕の過去の作品を見て同じ商品を作って欲しいと言ってくる人はほとんどいないよ。 そのかわり毎回新しいデザインを求められるんだ。 そこがデザイナーをやってて一番おもしろい!! B:デザイナー冥利につきるってやつだね!じゃあ次は壁紙について教えてほしいんだけど、 壁紙が生活に与えるインパクトはどんなものだと思う? P:そうだな…壁紙のいいところ… 実は壁紙がこんな風に売れている理由をずっと考えているんだ。 Scrapwood Wallpaperに関して言えばシンプルな方法で廃材の壁を作ることができることかな。 もしクオリティの高い廃材を集めようと思うとなかなか大変だからね。 B:それは数を集めることが?それとも値段? P:そうじゃなくて、一番の問題はぴったりの色や 質感の素材を探すのが大変だということ。 何百㎡もの莫大なストックの中から ぴったりな廃材を見つけないといけないからね。 僕たちは継続的に廃材を買っているから 色味なんかがわかっていてすぐにでもスキャンや撮影ができるんだけど。 もし本物の廃材で壁を作ろうと思ったら、 自分で莫大なストックの中から選ばないといけない。 ものすごく時間がかかると思うよ。 そういう風に考えると壁紙はそんなにコストも高くないし 手間もかからないと思うんだ。 本物の木のかわりに壁紙を買うだけなんだから。 本物の木は手に入れるのも難しいし、 もし手に入ったとしてもいざ壁を作ろうと思うとすごく扱いにくいんだ。 でも壁紙なら簡単に施工できるだろう。 そう考えるとScrapwood Wallpaperを作ることは理にかなっているよね。 Scrapwood Wallpaperを使う方がずっと簡単だし。 それに本物の木の壁みたいに見えるし味があるからおもしろい。 だまされてしまうくらいにね。 B:初めてScrapwood Wallpaperを見た時は衝撃だったよ。 海外のブログで紹介されているのを見つけたんだ。 今まで見た壁紙とは全く違っていて驚いたよ。 日本製の壁紙でも木目の壁紙はあったけど クオリティが桁違いだと思ったんだ。 それですぐにBOSSに報告したんだよ。 「最高の壁紙を見つけた!!」ってね。
P:ありがとう!そう言ってもらえるとすごく嬉しいよ。 B:あの時の衝撃は今でも鮮明に覚えてる。 オランダのデザイナーはオンリーワンなデザインをするアーティストが多い印象なんだ。 オランダ人デザイナーで誰か気になっている人はいる? P:若い世代のデザイナーたちかな。たくさんいるんだよ。 Wieland Vogel, Tom Frencken, Floris Hovers、他にもたくさん。 若い世代のデザイナーたちはとても優れていると思う。 もちろんあまり知られていなかったり成功への道は狭かったりするけどね。 僕の時代はデザイナーの数自体が少なくて、デザインの需要が高かった。 今はその逆で需要はそこまで高くないのにたくさんのデザイナーがいるんだよね(笑) とても競争が激しいよ。 B:若い世代が出てきてるんだね。 じゃあデザイナーにとって今のオランダの市場の状態は厳しくなってきているってこと? P:そうだね…。技術の発達で仕事はやりやすくなったけど、 たくさんのデザイナーたちがいるから競争が激しくなってきているんだ。 デザイナーに求められる能力の種類も変わってきている。 ただデザインをしていればいいってわけじゃない。 そこが昔とは違う所かな。 B:というと? P:ほとんどのデザイナーはデザインするだけでいいと考えているんだ。 デザイナーはもっとビジネス意識を持つべきだと思うんだよ。 今のデザイナーにはそれが足りていない。 今の若い世代が全員そうだとは言わないけど…。 逆に経営陣は財務や技術の面でしか会社をみていないんだ 。 ちゃんと両サイドから見ないとうまく回っていかないんだよ。 デザインをヒットさせるにはデザイン性はもちろんだけどマーケティングや品質、 商品の魅力性や売り方まで考えないといけないんだよ。 B:プレッシャーや責任が多そうだね。 P:そうじゃなくて…いや、そうだね。 でもそれは確実にデザイナーの仕事だと思うんだ。 デザインを世に送り出すまでにはデザインのプロセス以外に たくさんすべきことがある。 それらを誰かに任せるんじゃなくて、 1から10まで自分たちでまかなうことで完璧な商品をお客様に届けたかったんだ。 だから僕が会社を始める時は最初から全て僕たちだけでやったんだよ。 B:なるほど。そうやって最高の商品ができあがるんだね。勉強になるよ。 最後に日本と日本の市場についての意見を聞かせて? P:日本は僕らにとって初めて海外展開した国なんだ。 Ciboneが初めてのオランダ国外で僕の作品を紹介してくれて販売してくれた店舗なんだ。 だから僕にとって日本は特別な場所なのさ。 僕の作品に対する姿勢と日本人のスピリットはすごく似ていると思うんだ。 ものを大切にする「もったいない」という精神や素材を活かす作品作りとかね。 これは日本の人々が他のどの国よりも持っている感覚だと思う。 そして日本の人は工芸や素材に対して重点を置いている。 すぐ捨てるのではなく素材を大切にして、細かい部分まで使う。 日本ではこの意識が昔からすごく高いと思うんだ。 B:僕も最初に日本に来た時はそう思ったよ。日本の人は 「もったいない」ってよく言うから本当にものを大切にしてるんだなって感じた。 エコの精神だね。 P: そうだね。僕の仕事に対する考え方とよく似ている。 ヨーロッパでは最初受け入れられなかったけどね。 でも今ではみんな理解し始めているんだ。 もっと注意しなくちゃって。 昔から変わらないスタイルで作品を生み出し続けているPiet Hein Eek。 有名なデザイナーである彼だが、その人柄はフランクでとてもフレンドリーだった。 今回対談で彼がどんな思いでものづくりをしているかが知れてますます虜になってしまった。
P: ところで素敵な壁紙を貼っているね。これは誰が作ったんだい? B:Piet Hein Eekっていうデザイナーの壁紙なんだけど…って君のデザインだろ!(笑) P:ははは!綺麗に貼ってくれてありがとう!